前回まででシナリオの骨子となるプロットの作成は終わった。
今回からは実際に使用するシナリオの書き方に移っていこうと思う。
アクトを始める上で、最初に使用されるのがアクトトレーラーとハンドアウトだ。
これはシナリオの第一印象を決める重要なファクターだ。しかしこれらは馴れていないと何を書いていいのか分かりにくく、ある意味最も躓いてしまうポイントのひとつと言えるだろう。
そこで、今回はアクトトレーラーやハンドアウトの書き方を考えていこうとおもう。
アクトトレーラーとハンドアウトはなぜ必要か?
そもそもアクトトレーラーやハンドアウト、これらはなぜ必要なのだろうか?
それはそのアクトにあうキャストを提示してもらうため、そして逆に早い段階でPL側から提案を行ってもらうため、そしてアクトに向けてのマインドセッティングを整えてもらうためだ。
当たり前のことなのだが、どんなキャストでも参加できるシナリオというのは存在しない(もしもそんなアクトが存在しているというのならばそのアクトにおいてキャストは当事者性を持たないことになるだろう)。
どんなシナリオでも参加するキャストにはある程度の制限がかけられている。制限と言うと大仰に聞こえるかもしれないが、ここでいう制限とは「推奨スタイル」「推奨所属」「シナリオコネ」といった小さなレベルでの指定も含めている。
こういった制限をアクトが始まる前に事前に提示することで、そのアクトにあったキャストで参加してもらう。それがハンドアウトの意義である。
ではアクトトレーラーはなぜ必要なのであろうか?
極論を言ってしまえば、少なくとも僕はアクトトレーラーは必ずしも必要な要素ではないと思っている。最悪、アクトトレーラーがなくてもハンドアウトさえあればそれでアクトを始めることは可能だしハンドアウトをしっかりと作りこんでおけばアクトにあったキャストで参加してもらえるはずだ。キャストに必要な情報はハンドアウトで提示されるのだから。
だが、それでもアクトトレーラーがルールで定義されているのにはもちろん意味がある。
アクトトレーラーの意味、それはアクトの雰囲気を伝えることだ。雰囲気を伝えることで、プレイヤーはどんなアクトなのかを事前に理解してマインドセッティングを行ってもらえるだろう。
また、よいアクトトレーラーは遊ぶ前から遊びたいというモチベーションやテンションを高める役にも立つ。
アクトの雰囲気を伝えるために―テーマ編―
アクトトレーラーはアクトの雰囲気を伝えるために必要だと書いた。
では、具体的にアクトの雰囲気を伝えるためにはどうすればよいのだろうか?
様々な手法があるだろうが、僕はそのシナリオのテーマをベースに考える。テーマというのは、つまりそのシナリオの中心となるものだ。それをベースにして考えればアクトの雰囲気を伝えやすくなる。
これは具体例を出すと分かりやすいだろう。
以下は自作シナリオ(正確には後輩が作ったシナリオをベースとしたものだが)のアクトトレーラーである。
志半ばで一匹の猟犬が死んだ。
お調子者だが、まっすぐで、いい奴だった。
別に珍しくもない、二秒に一度はある話。この街ではそんなことは日常茶飯事だ。
だけど、誰かにとっては一生に一度の悲劇。もう取り返しようのない、悲しい現実だ。
大切な人を失うのはあまりに悲しくて、その胸に空いた空虚な穴を埋めたくて、人は復讐にすがる。
それでは満たされないと知りつつも、それしかこの空虚な穴を埋める方法がないから。
そうして復讐は復讐を呼び、悲劇は拡大していく。
終わりなく、際限なく、それはさながらメビウスの輪のように。
トーキョーN◎VAthe Detonation、 「Revengers' Mebius」
歪んだ運命の環、リベンジャーズメビウスを断ち切れるのは君達だけだ
このトレーラーを読むことで、このシナリオが「復讐」をテーマとしたものであることは分かっていただけると思う。
実際、キャストもゲストも復讐をモチベーションとしたシナリオであった。
アクトの雰囲気を伝えるために―引用編―
これ以外の方法でもう少し手っ取り早く簡単にアクトの雰囲気を伝える方法がある。シナリオで実際に使うセリフ、シナリオのオープニングで起こる状況などを伝えるという手法だ。シーンをテーマにしたシナリオなどを中心に、大抵どのシナリオでも利用出来るテクニックだ。
この方法はシナリオからそのまま描写を持ってこれるために、結構手軽にしかも雰囲気を盛り上げやすい。ただ、その場合でもテーマを意識して書いてみるとよいだろう。
この方法に関しては、実際の映画の予告編などを参考にしてみるといいのではないだろうか。
僕は基本的にテーマ主体でトレーラーを書く人間なのでこの引用テクニック主体のトレーラーというのはそう書かないが一応参考例としてこの手法で書いた自作シナリオのアクトトレーラーを紹介しておく。
心優しき慈善家が恵まれない子供たちへ向けたクリスマスプレゼント。
子供たちに希望を与えるはずのプレゼントは、しかし輸送機のハイジャックにより奪われてしまう。
乗客乗員あわせて150名を人質に犯人たちはシャトルに立てこもった。
「外部から人員を送り込むしかない……」
「だが、相手の監視網を無力化できるニューロと空中で相手に悟らせることなくドッキングさせれるだけの腕を持つカゼが必要だ。それだけの腕を持つ奴らがどこにいる?」
救出計画の成功率は5%未満、状況は絶望的だった。
「腕利きを探してるなら、ここにいるぜ」
だが、それでもあきらめない者達がいる限り希望はある。
トーキョーN◎VAthe Detonation、 「Getback Holly Night!!」
12月24日、最悪のクリスマス・イブが始まる。
このアクトのテーマは「クリスマスに起こったハイジャックもの」というものだ。
このトレーラーではハイジャックものの緊迫した雰囲気を出そうと絶望的な状況を示すような描写でアクトの雰囲気を伝えようとしている。
また、雰囲気を伝える以外にもこのアクトにおいては輸送機ハイジャックが全てのキャストにとって非常にウェイトをしめているためアクトトレーラーでその情報を提示した。これにより、ハンドアウトを読み上げた際に理解が早くなる。
他にもこのトレーラーにおいては引用と、フレーバーテキストを組み合わせることでPLにメッセージを伝えている。
「外部から〜」という部分から「〜どこにいる?」というのは実際のゲストのセリフの引用である。これにより、キャストでなければその事件を解決できないという状況を示した。これはリサーチ1シーン目の、キャスト達が集うシーンでの1コマだ。
このシナリオにおいてキャストの何人かはフリーランスながらそれぞれに理由を持って、自発的にケルビムに協力するという流れでシナリオを構築している。その合流シーンをスムーズにするために、あえてキャストが言いそうなセリフ(「腕利きを〜」をというセリフ)を噛ませた。
勘のいいPLならばその意図を汲み取ってくれるだろうし、そうでなくてもこれとハンドアウトを組み合わせることで無意識的にでも合流シーンを想定してくれるだろう。
ハンドアウトで提示する制限について
では次はハンドアウトについて考えていこう。
ハンドアウトの意義はアクトに参加するキャストを制限することにあると書いた。(制限する、という言い方は少し印象が悪いかもしれないが、キャストに設定を付加する必要がある以上、その設定を受け入れられるキャストでなくてはならないというのは立派な制限だろう)
そこでまずは実際の文章を書く前にハンドアウトでどのような制限を加えなくてはいけないかを列挙する必要がある(馴れてくればいちいち列挙しなくてもすぐに分かるようになるが)。
ハンドアウトで提示すべき制限としては以下のものがあげられる。
・推奨スタイル(推奨職業)
・シナリオコネとその人物像(オフィシャルゲストならば不要)
・シナリオコネとの関係(九条政次にダイヤのコネなど、薄い関係の場合は無理に入れる必要はない)
・特殊な設定を付加する必要がある場合はその設定(永世者とか、ミトラス帰還兵とか)
・そのアクトにおいて、そのキャストが何をすべきであるのか
・オープニングの状況、ないしオープニング開始直前の状況
なぜこれらの制限を入れておくことが必要かについて簡単に説明しよう。
・推奨スタイル(推奨職業)
スタイルや職業を指定しておくとオープニングの描写、キャストの参加するモチベーションを事前に用意しやすくなる。また、キャストの見せ場(具体的に言うと推奨スタイルの神業を打つタイミング)をシナリオで用意できる。
・シナリオコネとその人物像
シナリオコネがどのような人物なのかを説明しておくことで、プレイヤーがその人物像を掴めるようになる。これにより実際にそのゲストと絡むときにロールプレイを促進できる。またそのシナリオコネと絡みやすいキャストを提示してもらいやすくなる。
オフィシャルゲストは既にルールブックで解説されているため、無理に説明を入れる必要はない。
・シナリオコネとの関係
先に挙げた人物像と必要な意味は大体一緒である。
いわなくても一目で分るような関係(トーキーに渡される九条政次のコネやイヌに渡される千早冴子のコネ)葉いちいち説明しないでも伝わるため、無理に説明を入れる必要はない。
・特殊な設定を付加する必要がある場合はその設定(永世者とか、ミトラス帰還兵とか)
ハイランダーなど「記憶喪失のキャストが実は……」というような場合を除き、唐突にキャストに特異な設定をつけてしまっても受け入れにくい(そうそうない設定だから特異な設定なのだ)。それを回避するためにも事前に特殊な設定は言っておくことが望ましい。また、ハイランダーなど普段推奨されないようなスタイルを指定した場合、なぜそのスタイルを指定したのかは分るようにしておくとよいだろう。
・そのアクトにおいて、そのキャストが何をすべきであるのか
意外に見落とされやすいことだが、これがハンドアウトでもっとも重要なことのひとつだ。事前にその枠がどのような動きを求められているのかを知ることで、その動きが出来るキャストを用意することができる。またアクト中においても動きを見失ったとき、ハンドアウトを読み直すことで自分が何をすべきかもう一度整理することもできる。
・オープニングの状況、ないしオープニング開始直前の状況
オープニングフェイズが何が起こるのかわかっていれば、キャストをそれに応じてカッコよく演出することもできるようになる。
これ以外にも演出的にキャストにこうだといいなぁと思ったようなこと、また想定したキャストはどんなキャストなのかというところがあるならばなるべくハンドアウトに書いておくとイメージの共有がしやすいだろう。
ハンドアウトの実例
では実際の例を挙げて考えてみよう。以下は先にも挙げた「Revengers' Mebius」のハンドアウトである。
■推奨スタイル:イヌ(ブラックハウンド機動捜査課)▼コネ:渋谷 忠志
/スート:クラブ(後輩)
「先輩のハンドル、格好いいッスよね」それが君が面倒を見てきた新人、渋谷の口癖だった。お調子者だがまっすぐで正義感の強い、いい奴だった。だが、その渋谷はもういない。彼は初の単独任務中に殉職したのだ。彼の訃報を聞いたとき、君の胸に怒りに似た気持ちが湧き上がった。だが私情ではなく一匹のイヌとして彼の想いを継いでやろう。それが君にできる精一杯の追悼だ。
このハンドアウトを書く為に用意した情報は以下の通り(●が最低限必要な情報、◎が必須ではないがあると望ましい情報、○がその他の付加情報)
●推奨スタイルはイヌである(推奨スタイル)
●所属はブラックハウンドの機動捜査課である(推奨所属)
●シナリオコネは渋谷忠志という人物である(シナリオコネ)
●渋谷忠志はキャストの後輩である(シナリオコネとの関係)
◎渋谷忠志はお調子者だが、正義感の強い男である(シナリオコネの人物像)
●渋谷忠志は死亡している(オープニングの状況)
●キャストは渋谷忠志の捜査を引き継ぐ(キャストのモチベーション)
○実際の掛け合いで使用する為、イヌのキャストはハンドルがあるのが望ましい(ロールプレイを促進するための情報)
○復讐ではなく、一匹のイヌとして渋谷の想いをつぐキャストが望ましい(想定したキャスト像)
情報を列挙したら、あとはそれをベースに文章に起こせばよい。
このとき、どうしてもハンドアウト内に盛り込めない場合は最後に付記という形で付け足すのもよいだろう。
ちなみに、体裁を気にしないのならば先に挙げた箇条書き形式でも十分に機能を発揮する。もちろん、文章化した方が体裁がいいし、雰囲気を盛り上げることもできるが無理な場合はすっぱり諦めてしまうのもひとつの手であろう。この箇条書き形式でもやっていくうちに最低限伝えるべき情報をまとめるテクニックが身につき、情報の取捨選択ができるようになるため文章に起こしやすくなるだろう。
次回予告
お題:「シナリオ作成講座5―実際にシナリオを書く―」
次の更新日時は9月20日を予定している。
シナリオ作成講座の第5回目となる次回は、前回作成したプロットをベースに実際にシナリオを書き出す方法について考えていこうと思う
Gray Room>N◎VA>サポートコラム