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GOF用SS『贖罪者』

……『蒼い』……

目醒めた俺の頭に浮かんだ言葉はそれだった。
深く蒼い、まるで海の底で眠っているような、しかし重苦しさはない、
……むしろ心休まるような。

しかし意識がはっきりしてくると違和感がある、とりあえず立ち上がってみるか。

「うぬっ!!」
身体が重い……俊敏に行動出来るはずなのだが、……俺は自らをそう鍛えたはず。

何故か知らぬが、筋肉が水をたっぷり吸った服を纏ったように重く鈍い。
そのうえ頭までが重い、砂でも詰まっているかのようだ。

何かに捕まらんと立ち上がる事さえ難しそうだ。
動くのも難儀だが、何とか廻りを見渡してみる、……状況を把握しなければ。

……そこは広間のようだった。
木を複雑に噛み合わせた、まるで寄せ木細工のような造りで壁も天井も出来ている。
ただ天井の一部が、濡れたような艶を持つ奇妙な半透明の物体になっており、
そこからあの『蒼い輝き』がこぼれているらしい。
そして、それらがなんというかごく自然に、……そう、生き物を思わせる、滑らかな曲線で繋がっている。
見た事も聞いた事もない建築様式だ、……どこなのだここは?

壁に身体を預け、立ち上がってみる。

……!……

たまらんなこれは、身体中を蜂にでも刺されたように痛む、もっともそんな目にはあったこともないが。
しかし、一体全体俺の身体はどうなってしまったというのだ?


「おや、気が付かれましたか郭昇殿?」
鈴のような女の声が広間に響く。


俺は瞬時に痛む身体を、無理矢理振り向かせ身構える、
……が、動けなくなってしまった、目前の女を見た事によって。


……その女は、童女のような小さな身体だが、あきらかに大人の女だった。
いわゆる矮人というものか?


……雪の様に白い肌と足首までありそうな髪、さらに着ている着物のような服まで白い。
雪で出来た彫像のようだ、……そのなかで桃色に不思議な輝きを持つ瞳と、鮮やかな赤い唇が際立っている。
俺は今まで生きてきた中でここまで美しい人間は見た事が無い。
その美貌が異常な体格などの印象を消しさり、俺の戦意まで奪い取ってしまった。
昔、本で見た事が有る。
旅人を魅了しとり殺す、……雪女郎という魔物の事をを思い出した、
とても人とは思えぬ、この女にその姿が被った。

「……なにものだ貴様。」

長い沈黙の後、女から目を離し、俺はようやくそう言った。
女は微笑を浮かべ。

「私ですか、私は鬼部白頭(おにのべ はくず)。……この里の長です。」

里?……俺は確か、20回大会の控え室で……?
……どうも、記憶がはっきりせんな。

「やはりまだ記憶に混乱があるようですね、……詳しい事は場所を変えてお話しましょうか。」

得体の知れん手合いだ。
油断はできん、とはいえこの女に状況を聞くしか無い以上、そうするしかないか。

「解った。」

女は微笑を浮かべると、入って来た扉からこちらを見ながら出ていった。
しかし、……まるで菩薩のような。
……おっと今はそんな事を考えてる時ではないか。
俺は無言で女に促されるまま、その蒼い部屋を出ていった。

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そこは巨大な広間だった、造りは先程俺の居た部屋に似ているが、その広さは段違いだ。
ちょっとした体育館ぐらいのサイズはあるか、そしてあいかわらず例の蒼い光が広間全体に広がっている。

しかし前の部屋と大きく違う点が二つある。

ひとつは中央に奇妙な球体が浮かんでいる事だ。
球体とはいっても、真円ではなく蚕の繭に似た、どちらかというと豆のようなものだが。
その球体は微妙に淡い光を放っている、……螢の光が一番近いな。
良く見ると球体の芯の部分に、薄く陰りが見える。
なにかあるのだろうか?

そしてもうひとつは。
球体の側に佇んでいる異様な巨躯の男……見覚えのある顔だ。

……山咲龍児……俺と同じ『武神降臨大会』の選手で、凶悪な空手の使い手だ。
普段とは違い、ゆったりとした濃紺のワイシャツに、白いスラックス、同じ色の背広を小脇に下げている。
あいかわらずヤクザにしか見えんな。

「よぉ、目が醒めたか。」
山咲はドスのきいた声で言った。

「ああ、目覚めは悪いがな。」
……聞きたい事は沢山あったが、苦笑しながら俺はとりあえずそう言った。
しかしなぜこの男がこんな所に?

「何か色々聞きたそうなツラだな、……まぁ、とりあえずこっち来て座れや。」

……山咲のすすめる先には、表面に奇妙な紋様の彫り込まれた円筒形の物体があった、
…………どうみても椅子にはみえんが。

「すいませんが山咲さん、それは儀式用の道具ですので……。」
……白頭殿は申し訳なさそうな声でそう言った。

「おっとすまねぇな、・・・まぁ座れや。」
……山咲はそう言い床に胡座をかいた。

「ああ。」
……床はあまり汚れておらず、顔が映りそうなぐらいツヤがあり、やはりうっすらと紋様が浮かんで美しい、
むしろ座った事で汚れそうなぐらいに見える。
とりあえず同じように胡座をかいて座った、ひんやりとしているが冷たいというほどでも無いようだ。

「で、まず何が聞きてぇんだ?」

……さて、何から聞くべきか、……

「まず、ここはドコなのだ?」
……とりあえず、これだな、状況が解らないのでは何も出来ん。

「ここは、鬼部の隠れ里だ。」

「鬼部?……先程、白頭殿にも聞いたが何なのだそれは。」
正直、聞いた事も無い名前だ、ゆえに俺の現在の状況にかかわりが有るとも思えん。

白頭殿が控えめに。
「先代の長が言われるには・・・私達は大昔に異能の力を持っていた為、
今の日本人から枝別れしていった一族なんだそうです、で、その力で隠れ里を作り隠れすんでいるのです。」

ふむ、異能の民か。……しかしここで俺は疑問が湧いて来た。
「……疑問があるのだが、……何故、そんな大それた所に俺は居るのだ?……それと山咲殿、貴様も。」

……実際、妙な話だ。……此の里とこの男に接点があるようには見えんのだから。
いつもはずけずけとものを言う山咲が、考えこんでいる。
……しばらく沈黙が続くと、白頭殿が語りはじめた。

「山咲さんは、一族からかつて分かれた者の末裔なのです、
……その事実は一族の者が件の『武神降臨』大会に参加した折り、……判明した事ですが。」

なるほどな、……しかし。

「ふむ、確かにそんな名の選手が居た記憶はあるな、
……山咲殿の事に関しては理解したが、俺が此所に居る理由はまだ解らん。」

白頭殿が今度は沈黙し、話す事を促すように山咲の方を向いて僅かに頷いた。

沈黙が続き、……しばらくして正面から俺と目を合わせ山咲は重々しく口を開いた。
「お前、20回大会の武神戦の時にえらくダメージ負ってたよな、試合前だってのによ。」

……!……流石に見抜かれていたか、俺は内心の揺らぎを見せないように。
「どこぞの女が俺の命を狙ったから倒した、……それだけの事だ。」

山咲はその名のごとく山のような巨躯を微妙に傾け、俺の目を見ながら。
「岸辺 茜・・・・・・だったな、・・・・大会中は竜胆と名乗ってたが。 」

その名を聞いて、俺は動揺を抑えきれず顔を歪めた。
「……貴様、何故その名を知っている。」

山咲は俺のその顔を見て、僅かに唇の端を歪め。
「色々調べさせてもらった、・・・お前ら二人の過去をな。」

……何だと?……頭に鈍い痛みが走り、俺は顔をしかめ額に左手を当てた。
その姿を見ながら山咲は表情を変えず、沈黙している。

「……どこまで調べた?」
俺は苦痛を和らげようとするかのようにそう言った。

山咲殿は相変わらず表情を変えずに淡々と。
「・・・お前がアイツの兄貴を果たし合いで殺した、・・・・そこまでだ。」

俺は額を軽く抑えながら。
「……そうか、で、この状況と何の関係があるのだ?」
一言一言を話すたびに鈍痛が走る、たまらない気分だ。

山咲は軽く膝に乗せていた手を握りしめ。
「景虎の事は知ってるよな?」

……かげとら、……反街景虎。
山咲の義理の甥だという、実際本人にも会い話した事もある。
やや変わった所もあるが、見どころのある青年だった。
俺や山咲と同様に武神降臨大会に出場し、初参加ながら中々健闘していた。
……彼も関係あるのか?
「……ああ、知っているが、……彼奴がどうした?」

山咲殿の握りこぶしに力がこもっている、感情を抑えているかのように。
そして一言呟いた。
「お前が殺した竜胆って女はな、……景虎が愛してた女だ。」

…………何だ……と?…………
頭の中が墨で塗りつぶされたように黒く染まった、どうしようもなく身体から力が抜けて行く。
……そうか、あの娘と彼奴が。

「それは、……悪い事をしたな。」

……武術家として、ああする事があの娘への礼儀だと思ったのだ、それは間違ってはいない。
相変わらず山咲は正面から俺を見つめている、俺はその視線から逃れるように俯いた。

「悪いと思ってるなら何で俺の目を見ねぇ、…………何で目を逸らす。」

しばし無言の時間が流れ、山咲は。
「……答えろ……でなければ。」
山咲から鋭い殺気が吹き出してくる、普段は見た事もない姿だ。

「正直くだらんと思ったからだ、……あの娘、11年前せっかく生かしておいたはずなのに。
……結局こんな道を選んだのか、……愚かな。」
俺は、淡々と言った。

俺は間違ってはいない、……右の拳、ドス黒く染まった拳で床を殴りつける。
……鍛え上げ、もはや痛みなど感じなくなった拳が乾いた音を広間に響かせる。
間違ってはいないはずだ。

「何もかも捨て、……すべては復讐の為に、……それしか思い付けなかったのか?」

山咲はその紅い瞳で俺を射抜くかのように睨み、……俺は同じように睨み返す。

少しして山咲は口を開いた。
「俺もお前と同じ殺し屋だった、……殺しが悪いとかどうとかはどうでもいい、だがな身内に関しては、
……身勝手だと言われようが黙っちゃいられねんだよ。」

山咲の目から鋭さが消えて、……悲しさが浮かんでいた。
俺はそれを見て、宙を仰ぎながらぽつりと言った。
「あの日、俺は二度負けた。……朝霧とか言う娘と、……岸辺にだ。」

脳裏に今も鮮明に蘇ってくる。
俺の鍛え上げた毒手を喰らい、それでも何度も向かって来た女の姿が。
「……重かった、……岸辺の数十年の想いが込められた掌底突きは、
そして気付いた時には、……俺を倒した女は……そのまま疲れて眠るように。」

毒手を握りしめる、鉄のように鍛えられた手がぎちりと鈍い音を立てた。
「……信じられるか?」
山咲を見ながら俺はそう言った。

山咲は軽く息を吐いて。
「それだけの強さを持ってたって事か。……景虎が惚れるわけだ。」

俺は頷きながら。
「…………認めたくはないが、……確かに強かった。」

山咲は皮肉そうな笑みを微かに浮かべ。
「グラッツさえ倒す、その自慢の毒手で一人の女の意志を捩じ伏せられなかったってか、
……そういえば……ひとつ聞きてぇ事がある。」

俺はやや憮然としながら。
「……何だ?」

山咲は重々しく聞いてきた。
「……お前は何の為に強くなろうとした?」

今さら何の質問なのか、俺は鼻を鳴らし。
「……つまらん事を聞く、男が強さを求めるのは当然であろう?」

さらに山咲は聞いてくる。
「……そうして、結局何を得られたんだ、……何よりお前ぇの求める強さってのは何だ?
……たやすく人間を殺せる技が強さか?」

山咲の目を見る、……そこには深い虚しさが見え隠れしている。
俺は彼奴から目を離し。
「…………フッ、そうさ何も得られなかったよ、この歳になるまで。」
虚しさが身体を被い尽くす、……重い、すべてが。
「……ずっと探しているものは、……ついに見つからなかった。」
残ったのは、流れた血と、……この毒手のみだ。

山咲は自分の拳を見つめて。
「この拳が岩も砕けるほど強力でもな、……大事なもん一つ守れねぇ、そんなもんに何の意味がある。」

……大事なモンか。
「そうか、……貴様も。」

山咲はまた俺の方へ視線を戻し。
「・・・だから俺は出来る事をしようとした、・・・見た所、あの娘が何か因縁背負ってるのは、何となく解ってたしよ、
・・・知り合いの腕の良い情報屋に頼んで調べてもらった。」

言い終わると彼奴は溜息を付き。
「・・・とはいえお前まで絡んでるとは思いもしなかったが・・・で、結局間に合わなかったがな。」

長い沈黙が続き、…………俺は口を開いた。
「……そうか、で、俺がここにいる理由とはなんなのだ、……岸辺の仇でも討つつもりか?」
……この体調で彼奴の相手はツラいが、……それでも俺は受けてたつ。

山咲は目を細め、苦笑しながら立ち上がって。
「……そんな事をしても彼奴への慰めにもならねえ。……別の手が必要だ、その為にお前ぇを蘇らせたんだからよ。」

……蘇えらせた?……
俺はその言葉を認識し理解するのに数秒を有した、そして。
「……ちょっと待て、……今なんと言った?……蘇らせたとはどういう意味だ。」

「……それは私から説明しましょう。」
白頭殿が柔らかな声で会話に入って来た。

「……誰でもいい!……蘇らせたとはどういう事だ!!」
とにかく何もかもが解らないこの状況は堪え難かった、俺は叫ぶように白頭殿に迫った。

「……貴方はその武神降臨大会の控え室にて命を落としているのですよ。」
白頭殿は平然と俺の問いにそう答えた。

なん……だと?
また頭が痛み出した、……岸辺との闘い、……傷付いた身体を引きずっての朝霧と闘い。
満身創痍で控え室の椅子に座る俺、……そして……。

「……今の貴方は彼岸と現世の中間に居る存在、……生きてもいなければ死んでもいないのです。」

俺は自分の心の臓に手を当てた、……鼓動が無い。
そして、……目を下にやれば、……蒼い光の中で、……いつもそこにあるはずの影が無い。
……ま、さか。

山咲が冷然とした目で見下ろし。
「・・・お前にはやらかした事へのオトシマエを付けてもらう。」

俺は衝撃から覚めやらぬまま、山咲を見上げ。
「……オトシマエ……だと?」

山咲はそのまま言葉を続ける。
「……お前は俺に借りがあるはずだ、……うやむやにして、逝っちまおうったってそうはさせねぇぞ。」

山咲が叩き付けるように俺に言葉をぶつけるのを見兼ねたように、
白頭殿が会話に加わった。
「……山咲さんの望みは、……竜胆と呼ばれる方の蘇生なのです。」

蘇生?……なるほどな。
俺は苦笑しながら立ち上がり。
「……俺が奪ったその娘の時間を返せというのか、……ふん、俺に何をさせるつもりだ?」

山咲は俺の質問には答えず、背後にあった例の繭状の物体の方にあごをしゃくった。
そして、……その繭に目を向けると。
白頭殿が繭の表面に手をあてていた、……次の瞬間、曇っていた繭の表面が半透明に変わり。
中にあった翳りの正体を俺は認識した。

…………これは…………!!
繭の中には美しい裸身を胎児のように丸めた女が浮かんでいた。
肌には無数の傷が浮かび、凄まじい修羅場をくぐってきたことを物語るかのようだ。
ポニーテイルにしていた長い髪は、身体を慈しむかのように柔らかく漂っている。
表情は眠るかのように、……そう、あの時、……眠るように俺の前で崩れ落ちた時のままの顔で。
……『竜胆』……大会ではそう名乗っていた、……しかし本当の名は『岸辺 茜』。
11年前、俺がこの手で殺した男の妹だ。

山咲は岸辺に見入ってしまった俺に。
「・・・大会が終わった時に、・・・お前ぇと一緒に運びこんだ。」

白頭殿が繭から離れ、俺のそばまでやってきてまた説明を続ける。
「……この方の肉体的な損傷は完治しました、……すぐに元の生活に戻れます。」

「……同じ蘇生でも俺とはずいぶん扱いが違うものだな。」
俺は痛む身体を撫でながら、鼻を鳴らし、そう皮肉を言った。

「あなたの場合は肉体の生命力が、……毒でしょうか?
……それらの処置で極端に低下されていました、……ゆえに完全な形での蘇生が不可能だったのです。」
白頭殿が俺の皮肉にも動じずそう答えた。

……ふん、自業自得だと言う訳か、……俺はふたたび岸辺に目を戻し。
「しかし見たところ、すぐにでも目を覚ましそうなくらいだが、
……俺などが何の役に立つと言うのだ?」

白頭殿が少し顔を歪め、また語りだした。
「……あなたと逆にこの方は、……心が死んだままなのです。」

……心が死んでいる?……

「……貴方が蘇生してすぐの時に混乱されたように、……死というものは心にも身体にも傷を残します。」
白頭殿が繭に手を当てながら説明を続ける。

「ふん、……確かにそうだったな。」
俺は蘇生した直後の、混乱して取り乱していた自分を思い出して憮然とした。

山咲が腕を組み、重々しく。
「・・・とにかく、心が戻らねぇ限り、・・・・こいつは生きた屍だ、
・・・そんなもんは生きてるとはいえねぇ。」

白頭殿は少し堅い声で。
「……あの方の心は絶望に捕われ、……彼岸の底で蘇る事を拒絶しているのです。」

……絶望……
……絶望か、……仇は結局果たせなかったのだからな。

山咲殿が眉間に皺をよせながら。
「アイツは自分で這い上がる事もできねぇ、・・・・手助けが必要なんだ。」

助力、……ふむ、何となく見えてきたか。
「つまりその為の手助けをしろと言う訳か?
ふん……死にたがってる者を無理矢理蘇らせてどうするというのだ。」

山咲殿は組んでいた腕を解き、俺の方を見て。
「……しのごの言わずに手伝え、……お前が原因なんだからよ。」

「解っている、……貴様などに借りを作っていたら、地獄の底まで取り立てに来られそうだからな。」
苦笑しながら俺はそう言った、……事実、すっきりせんしな。

白頭殿が微笑みながら、話を続ける。
「では、本題に入ります。……このままの状態ですと、
……心と共に肉体までもが近い内に崩壊してしまうでしょう。」

白頭殿は一息付き、そしてまた説明を続ける。
「まず、彼岸までの通路を開き。……彼女の心と接触します。
そして、しかる後、……彼岸から連れ出し現世の肉体へ帰還させる、
……そういった流れになるでしょう。」

俺は首をかしげ。
「ふむ、理屈は良く解らんな。」

白頭殿は俺の顔をみながら。
「通路、……まぁ、仮に霊道としましょう。
……これを作る為には人の精神のエネルギーが必要とされます。
……しかも多量に、……私達の方でもこれらを集めていますが、
……いかんせん一族の人数は少数なもので。」

俺は腕を組みながら。
「……どうにもならんではないか。」

白頭殿は微かに微笑み。
「そこで貴方のお力をお借りしたいのです。……つかぬ事をお聞きしますが、貴方は相撲は知ってらっしゃいますか?」

俺は唐突な質問に拍子抜けし。
「……まぁ、知っているがそれがなんなのだ?」

白頭殿は、目をまた繭に戻し。
「……元々、相撲という競技は神前への奉納の儀式だと言われます、
……その真の意味は、強い精神と肉体をもつ者達が切磋琢磨する事によって生み出す精神エネルギーを、
……神に奉納する、そういった儀式が元なのだそうです、……それによって得られる力は純粋かつ多量。
……貴方もそういった経験はありませんか?」

「まぁ、……無いとは言えんな。」
確かに、……そういった感覚は無くは無い。
強敵達との戦いでは、高揚し力がとめどもなく沸き上がってくるかのようだった。
あの感覚はほかでは得られん、……それを求めて俺は武神降臨大会にこだわり続けたのかもな。
「戦いで得られるエネルギーとやらを俺に集めてこいということか?」

山咲があいかわらず恐ろし気な笑いを浮かべ。
「さっしがいいな、……とはいえお前一人じゃ手が廻らないだろうしよ、俺も手伝う。
……だいたいお前ぇのその姿じゃあよ、普通の武神降臨大会にゃ参加出来ねぇだろうしな。
……そこでコイツだ。」
そして何やらパンフレットのようなものを投げ付けてきた。

「……何だこれは?……GOF……二人形式の武神降臨だと?」
ふむ、かなり昔に開催されたというチーム形式の武神降臨大会か。
噂には聞いていたが、……再び開催されるのだな。

「ああ、すでに何人も強豪共が名乗りを上げているらしい、・・・舞だのヴァレンタインだの高杉だのがな。」
山咲は拳を掌に打ち付けながらそう言った。

「なるほど、ん?……待て、俺と誰が組むのだ、……お主か?」

山咲が苦笑しながら。
「この状況で……俺以外にいるか?」

確かにこの男しかおらんな。
「それも一興か、……解ったお主と組もう。」
俺はそういいながらも未知の戦いに心が震える、
……武神になった事によって、こんな気持ちは燃え尽きたと思っていたのにな。

山咲は笑みを深くしながら。
「どうせオトシマエをつけんなら、・・・面白ぇほうがいいだろうがよ?」

俺は苦笑しながら。
「ふっ、……実も蓋も無い言い方だな、……だが確かに面白い。」

我々が話していると、別室にいつのまにか行っていたらしい白頭殿が。
……何やら黒い箱を持ってきた。
「これをお持ちください、……生み出されたエネルギーを集めるモノです。」

見ると、箱の中には二枚の鏡が入っていた。
……ふむ、いわゆる道鏡というものを小さくしたものだな。
鏡面にうっすらと筋のようなモノが見える、……それがなんともいえず美しい紋様をになっている。

白頭殿は鏡の表面を指でなぞり。
「……この鏡はこの里でしか作れない金属で作られています、……この金属には面白い特長があって。
……人の心によって生み出される、精神エネルギーを蓄積する事が出来るのです。
……つまりこの鏡を身に付けて戦えば、おのずと。」

「ふむ、なるほど便利なものだな。」
俺は山咲に道鏡を一枚渡し、自分の分を懐にしまった。
「……さて、何をするかは解ったが、それまではどうしたものか?」

山咲は顎に手をやり
「お前は今の状況的に名前と顔は伏せたほうがいいな、・・・死んだ事になってるしよ。」

俺は少し思案し。
「……そうだな、…………では、俺の事は『影刑』とでも呼んでくれ。」

山咲は口のはしを歪め。
「・・・ったくよ、あいかわらず気取った名前を付けるヤロウだな。」

俺は苦笑し。
「……ふん、性分だしょうがあるまい。」



…………………こうして俺は山咲殿と組んで、GOFに出場する事になった。……………
………………………………顔を覆面で隠し、名を変えて。…………………………………
……………………今の俺は『影』の底で『刑』に服すもの。………………………………
…………………………………………『影刑』だ。……………………………………………